2025.05.26
皆さんこんにちは
サンプロ イノベーションラボのスワです。
近年、メディアや SNSで取り上げられることが増えたストリートダンス。
皆さんは、このカルチャーがどんな背景から生まれ、いま世界へ広がっているかご存じでしょうか。
ストリートダンスは1960年代後半、アメリカの街中で誕生しました。
当時、貧困や治安悪化に揺れる混沌の時代のなかで、
人々は暴力ではなく “踊りというアート” で自分たちの暮らしをより良くしようとしました。
このようなルーツを持つストリートダンスは、
「一人ひとりの個性を尊重し、互いの違いを認め合う」という精神を大切にしています。
日本では2012年に中学校保健体育の必修科目となり、
2024年パリ五輪では正式種目に採用されるなど、世界的な注目が高まっています。
現在では、ラップ・DJ・グラフィティと並び、ヒップホップの4大要素とも言われ
このカルチャーは世界各国に広がっています。
今回は、そんなストリートダンスの概念を信州の子どもたちへ伝え、
「自己表現の楽しさ」と「挑戦することの大切さ」を届けているプロダンサー‘ちびゆり’さんにお話を伺いました。
ページコンテンツ
初めに、ちびゆりさんがダンスを始めたきっかけを教えてください。
小さい頃は、ブラックミュージック好きの両親の影響もあり、
家ではよくレコードをかけてくれて、音楽に溢れる環境の中で育ちました。
最初に「踊り」と出会ったのは、3歳ではじめたクラシックバレエです。
そこから踊り・音楽に触れる機会が増えていき、小学校5年生の時には、
小沢征爾さんが指揮する〈サイトウ・キネン・フェスティバル〉の子ども合唱団オーディションも受けました。
その後、中学ではソーラン節にも触れましたが、
ストリートダンスに心を奪われたのは高校入学式の時です。
高校のダンス部の先輩がステージで踊る姿を目にし、ダボダボのパンツに金髪といった自由な表現で、
バレエやソーラン節とはまったく違うスタイルでかっこよく踊るその姿に一瞬で心を奪われ、
ストリートダンスの世界に飛び込みました。
そこからストリートダンスの道に進んでいくわけですね。
高校卒業後は、どのような進路を歩まれたのでしょうか?
大学はダンスと全く関係のない文学部に進学しました。
ただダンスサークルに入り、外部のダンススクールなどにも通いながら、ダンスの研鑽を積み4年間を過ごしました。
サークルの大会はもちろん、個人でも多数のコンテストに出場していたので、
あの頃は特に「勝ち」にこだわって、必死に努力した記憶しかないですね(笑)
その甲斐もあって、
4年生の時に、大学生のストリートダンス日本一を決める、日本最高峰のストリートダンスバトル「DANCE@LIVE」が両国国技館で開催されて、そこで優勝することができました。
それがきっかけで、プロダンサーの道を本格的に目指そうと思いました。
4年間の努力の末、優勝を勝ち取った達成感がひしひしと伝わってくる写真ですね
現在はプロダンサーでありながら、
「長野県ストリートダンス普及協会」の代表理事も務められているとのことですが、
この団体が発足したのはどのようなきっかけだったのでしょうか?
今までは、プロのダンサーとして、「自分の表現」を突き詰めてきたので、
「自分のダンスが社会のために」とか、「何かの力になれたらいいな」とか、
ダンスを通じて社会貢献を考える余裕は正直ありませんでした。
そんな中変化があったのは、
2020年のコロナ禍真っ只中の時のことです。
皆さんが緊急事態宣言で自粛を余儀なくされた時に、NHKのアナウンサーの方に
「おうちでできるダンスを TV でレクチャーしませんか?」と声を掛けていただきました。
「ぜひ!」ということで出演させていただいたのですが、
実際に見てくださった視聴者の皆さんが「家族と踊ってみました」とか、
「テレビ画面だと実際の距離は離れてるけど、ダンスでつながれた気がしました」という感想を送ってくれたんです。
この時に、「ダンスって、人と人をつなげる力があるよね」という話になり、
番組の趣旨が、レクチャーから「ダンスで人と人をつなげる」というテーマに変わっていきました。
そこから「飯綱町の牟礼小学校にダンスを教えに行きましょう」というお話をいただいて、
番組で訪問させてもらったんです。
▼牟礼小学校の訪問した初日の様子
ダンスをやったことがない子供たちがほとんどなので、初めはみんな「んー」みたいな感じだったのですが、
ストリートダンスを教えていく中で殻を破ると、
お互いのダンスを認め合いながら、笑顔で表現するようになって、
本当にみんな、個性を発揮してキラキラ踊るようになっていくんです。
この時に、「あ、ストリートダンスの持つ力ってすっごいかもしれない…
自分の今まで培ってきた経験が、長野県や子供たちの力になれるかもしれない」と思いました。
番組はそれで終わってしまったのですが、番組だけで終わらせるのはもったいないと思い、
当時一緒に参加していたメンバーと共に、2022年の2月に長野県ストリートダンス普及協会を発足しました。
その時に生まれた理念が、
「ストリートダンスの文化を長野県内に普及させ、未来を担う子どもたちの心を育てる」なんです。
私たちのオリジナルテーマソングも作りました。
▼長野県ストリートダンス普及協会_テーマソング
▼高橋あず美さんのプロフフィールはこちら
https://www.azumitakahashiweb.com/
楽曲は、乗鞍高原出身の世界的なシンガーソングライター高橋あず美さんに依頼をし、
私たちが学校授業で子どもたちへ届けたいメッセージを、歌詞におこしてくださいました。
こうして誕生した素晴らしい一曲を携え、長野県内の小中学校にストリートダンスの授業を行なっています。
「一歩踏み出してみよう!」という“元気と勇気”をもらえる歌詞ですね!
ストリートダンスで開放的になれる気持ちが、牟礼小学校生の笑顔からも伝わってきます。
長野県ストリートダンス普及協会では具体的にどのような活動を通して、
理念を広げられているのでしょうか?
メインの活動は、長野県内の小中学校を中心に、
ストリートダンスの教育活動を行っております。
また、学校以外にも、ダンスを本格的にやりたい子どもたち向けに、
ダンススクールの運営も行っております。
ストリートダンス教育活動のプログラム
ストリートダンス教育活動では、1つの学校につき、1ヶ月〜1ヶ月半の期間で、計4~5回に分けて学校に訪問し授業を行います。
ダンスをやったことない人へも、「本気で向き合ってほしい!」ということをとにかく伝えます。
今までの活動の中、ちびゆりさんが見た「子どもの変化」で、
一番記憶に残っていることはありますか?
最近の話になるのですが、
2025年の2月に、飯綱中学校に伺った際の出来事が一番印象に残っています。
この学校では、事前に先生から、
「周りの人の反応を伺って自分を抑え込んでしまう、というようなことが日常の中にあるので、
ダンスを教えるのは大変だと思います」と聞いていました。
実際に伺ってみても、
みんな「ダンスはやらない」という感じの空気になってしまっていて、
ストリートダンスの授業も本当に2回目くらいまでは、3分の1くらい踊らない子とかもいました。
▼飯綱中学校 ストリートダンス授業の様子
ここまでのことは初めてだったので、私たちも向き合い方を変えようと思い、
「それが君たちの答えだったらそれでもいいけど、それは本当に自分の答えなのか、
他人の軸で生きて出した答えなんじゃないのか」という話をしました。
「自分の人生をちゃんと選択して生きてほしいし、じゃないと後悔してしまう。
今後の未来があった時に、他人の人生を生きてしまうと後悔してしまうから、
自分の選択を大事にしてね、自分を大切にしてね」ということを伝えました。
そうしたら、最終日の4日目の発表回。
必ずしも全員が踊らなくてもいいパートがあったのですが、
ここでだれも踊っていない中、
一人の女の子がみんなの前で立ち上がって踊ってくれたんです。
それを見た他の学生さんも、自分から徐々に立ち上がって踊ってくれました。
この時に、一歩踏み出して今までの自分を変える姿を間近で見て、
すごく胸を打たれたというか、とても感動しました。
ちびゆりさんの言葉を頭の中で理解できていても、
実際に行動するということは非常に勇気がいりますよね。
本当にそうですね。
ダンスは言葉がいらない非言語の部分なので、
その特性も相まってというところはあるかもしれないですね。
他の生徒にも変化はあったのでしょうか?
5人くらいの男子グループも最初は全く踊ってくれなかったのですが、
最終的に、全員踊ってくれました。
先生方からも、時代的に学生さんに強く言い切れない部分もあって、
そういった中で外部の人がストリートダンスという概念を通して、
今まで変えられなかった学生さんへの教育の壁を壊してくれて、「本当に助かりました」という声も多くいただきました。
▼飯綱町立飯綱中学校 ダンス授業のアンケート結果
【質問1:「ダンスは好きですか?」に対するデータ】
ダンス授業の前は、「嫌い」が14人(全体の26.4%)だったのに対し、
ダンス授業の後は、5人(全体の7.8%)まで大幅に減少。
また、ダンスが「好き」の割合も3人(全体の5.7%)だったのに対し、
ダンス授業後は、12人(全体の18.8%)まで増加していました。
ダンス授業を通して、全体的にダンスに対する否定的な意見が大幅に減り、ポジティブな意見が増えたことが見て取れます。
【質問2:「ダンスの授業は楽しみですか?」に対するデータ】
こちらもダンス授業の前は、「楽しみじゃない」が16人(全体の30.2%)だったのに対し、
ダンス授業の後は、2人(全体の3.1%)まで大幅に減少。
ダンスが「楽しみ」の割合も2人(全体の3.8%)だったのに対し、
ダンス授業後は、24人(全体の37.5%)まで増加しています。
授業を通して、ダンスの楽しさを感じる生徒が大きく増えたことが見て取れます。
【学生さんからの実際のコメント】
・「友達と教え合い、励まし合うことで、お互いに成長できた。 」
・「人の目を気にせずに堂々と踊ることで、自信がついた。」
・「ダンスを通して相手の気持ちを考えることや周りを見ることが大切だと学んだ。」
・「クラスみんなでやるからこそ、協力することの大切さを感じた。 」
ストリートダンスが、言葉以外の表現で学生さんの心を開放させる。
「一人一人の個性を重んじ、お互いの違いを認め合う」という、
ストリートダンス本来の性質がまさに現れた瞬間ですね。
ストリートダンスの秘める可能性はまだまだありそうですが、
今後は小中学校以外でも活動を広げられる予定はありますか?
これは今、私一人でやっている活動なのですが、
高齢者向けの「フレイル(”健康な状態”と”要介護状態”の中間に位置する虚弱な状態)」の予防を目的とした健康ダンス活動も行っています。
「健康をテーマにしたダンス」というですね。
住宅も断熱性などの機能面で、「健康」に寄与するところがありますので、とても共感いたします。
具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
現在は「健康ディスコ」という名称で活動しており、
主に県内の社会福祉協議会などと連携して、高齢者の心身の健康増進を目的に
ディスコ音楽を用いたダンス講座を行なっています。
▼「健康ディスコ」の様子
高齢になってくると、福祉施設に入居されたり、自宅にいても外出機会が減ったり、
社会とのつながりが徐々に薄れていってしまうこともあるので、
そういった中で、「心身ともに健康になれたら」と思い、始めた企画です。
皆さん、講座を受けられる前は、「私はもう本当に腰が痛いから踊りたくない」っておっしゃる方もいるんですけど、でもプログラムを続けていく中で、腰が痛いって言っていたのに、もうガンガン踊られたりとか(笑)
踊り終わった後に、頬をちょっと赤らめながら
「私すごい若返った、ありがとう!」とか言ってくださったりするんですよね。
▼「千曲de健康DISCO」の様子
ダンスが体操と違うのは、やっぱり音楽の力もあると思っていて、
楽しい音楽に合わせて体を動かすことで、気持ちも元気になって、それが日々の活力にもつながっていく。
何よりも体を動かすことで、心がすごく元気になるというか、
気持ちがハッピーになる姿をみることができました。
「ディスコ」と聞くと、曲調が激しい印象を受けますが、
なぜディスコにされているのでしょうか?
そうですよね(笑)
ちょうど今の「高齢者」と呼ばれる65歳以上の方々が、
若い頃にディスコに行ってた方が多く、
「懐かしい!」って思ってくださる方も多いんです。
おっしゃる通り、
ディスコの曲調自体もノリノリな曲が多いので、
否応なしにテンションが上がるみたいなところもあって。(笑)
それが「健康ディスコ」を始めたきっかけです。
引用:https://jp.pinterest.com/pin/398568635780534392/
ただ、ディスコだとゴージャスなドレスとかを着て、キラキラ見せるものだと思っていたので、
「あまり高齢者の方々も求めているものじゃないかな?」とも思っていました。
ですがやってみると、意外と
「若い頃に戻って、ちょっとメイクをしてみるわ」とか、
「衣装をちょっと派手な色にしてみるわ」っておっしゃる方も多くて。
ディスコにしたことで、ワクワク感とか、気持ちの高揚感とかにもつながっている気がしますね。
ディスコのダンスを通して、
過去にタイムスリップした気持ちになれるのは嬉しいですよね。
私は世代的にディスコを経験したことがないので、
ディスコダンスやってみたくなりました(笑)
ここまで、ストリートダンスの可能性を深掘りさせていただきました。
最後に、ちびゆりさんの「ストリートダンスを通して思い描く未来」について、
理想の姿や想いなど教えてください。
一貫して思うのは、子供たちに自分の選択で強く未来を歩んでいってほしいなと思いますし、
自分のありのままの個性を受け入れて、認めて、
その個性を大いに発揮してもらいたいなと考えています。
私自身、背が低いというコンプレックスがありました。
でもダンスだと、「すごい小さいのに、踊ると大きく見えてすごいね」と言われたことがあったんですよね。
▲長野県ストリートダンス普及協会メンバー Azsaさん、ちびゆりさん、CHOPPA→さん、AKIさん
私のコンプレックスも、ストリートダンスを通じて良い個性に変わる、ということに私は救われた部分があるので、
ストリートダンスで、子どもたちにそういうところも感じてもらって、
周りと比較せずに、ありのままの自分を大切にして、自分の個性を輝かしてほしいなと思っています。
そういう子を増やして、子どもたちが元気になると、
信州が元気になることにもつながってくると思うので、
私はストリートダンスの面から子どもたちを応援して、
長野を盛り上げられる存在になりたいなと思っています。
▲取材で想いを語るちびゆりさん
ストリートダンスには、ヒップホップ、ブレイキン、ロック、ポップ、ハウスなど、様々なジャンルがあります。
それぞれのスタイルに合わせて、音楽や表現の違いはあると思いますが、一貫していることは、
ストリートダンスというプロセスを通して、「自分自身の個性」を活かし、
そして、「互いの違い(個性)を認め合う」という文化が根底にあります。
ちびゆりさんの関わる学生や高齢者の方が、ストリートダンスをきっかけに、日々の暮らしがより豊かなものに昇華していく。
信州のくらしに笑顔が溢れる瞬間を、
ちびゆりさんの発信し続ける「ストリートダンス本来の姿」を通じて感じました。
今回、取材させていただいたちびゆりさんが、
2025年8月24日にAsueアリーナ大阪で開催される、「JAPAN DANCE DELIGHT」の決勝大会に出場されます。
「JAPAN DANCE DELIGHT」は、ちびゆりさんが2015年・2016年に
2年連続ファイナル進出を決めた、世界水準のストリートダンスコンテストです。
信州のプロダンサーちびゆりさんが輝きを放つ当イベントに興味を持っていただけたら幸いです。
▼予選大会概要と結果について
JAPAN DANCE DELIGHT VOL.31 名古屋大会
▼予選時のダンス動画
ゴーとちびゆり / FINALIST / JAPAN DANCE DELIGHT VOL.31名古屋大会
▼予選大会概要と結果について
JAPAN DANCE DELIGHT VOL.31 FINAL
ちびゆりさん・長野県ストリートダンス普及協会の詳細については、下記公式ホームページからご覧ください。
【ちびゆりさん ホームページ】
https://www.chibiyuri.com/
【長野県ストリートダンス普及協会 ホームページ】
http://nsda2022.com/
取材協力 :一般社団法人 長野県ストリートダンス普及協会 代表理事 プロダンサー “ちびゆり”
執筆・編集:株式会社サンプロ スワ
──────────────────────────────────────────── 【くらしを楽しむコンテンツ】FUN TO LIVE 【一緒に働ける方募集中!】サンプロ採用情報 〈SNS〉 【大人気ルームツアーはこちら!】新築YouTubeチャンネル リノベYouTubeチャンネル 【素敵な住まい更新中!】Instagram @sunpro_style